甲状腺疾患とは

喉ぼとけと呼ばれる部位の真下にある蝶が羽を広げているような形をした10~20gの臓器を甲状腺と言います。ここでは甲状腺ホルモンが分泌されているわけですが、同ホルモンは全身の新陳代謝を促進させるなどの働きがあります。分泌量については、正常であればバランスのとれた状態が常にキープされているわけですが、何らかの原因によって崩れてしまうと様々な症状がみられるようになります。

甲状腺疾患のイメージ画像

甲状腺疾患について

甲状腺ホルモンのバランスが崩れるというのは、分泌量が通常よりも多くなる、あるいは少なくなるということですが、それによって様々な症状がみられるようになります。これらの状態を甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンが過剰に分泌される)、甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの分泌が不足している)と言います。また甲状腺に腫瘍が発生することもあります。この場合は良性と悪性があるわけですが、それぞれ甲状腺良性腫瘍、甲状腺悪性腫瘍に分けられます。さらに甲状腺に発症した腫瘍から甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるという病気もあります。これらすべてを甲状腺疾患と言います。

甲状腺機能亢進症
バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎
甲状腺機能低下症
橋本病(慢性甲状腺炎)、粘液水腫、手術後甲状腺機能低下症、アイソトープ治療後
甲状腺良性腫瘍
腺腫様甲状腺腫、のう胞、腺腫
甲状腺悪性腫瘍
甲状腺がん(乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様がん、未分化がん)、悪性リンパ腫
その他
プランマー病(甲状腺機能性結節)

甲状腺疾患の主な症状

甲状腺疾患では様々な症状がみられます。以下で挙げている項目というのは、別の病気(更年期障害 など)でもみられることが多いです。そのため、しっかり鑑別するという意味においても一度当医院をご受診ください。

  • 疲れやすい(易疲労感がある)
  • 顔や手などにむくみがみられる(朝の起床時)
  • イライラしてしまう、落ち着きがない
  • 暑がりで、よく汗をかいている
  • 体に冷えを感じ、寒がることがある
  • 首が腫れている
  • 安静にしていても動悸が止まらない
  • 小刻みに手指が震えている
  • 便秘気味になっている
  • カサカサ肌に悩んでいる
  • 日中の活動時でも眠気をいつも感じている
  • 食欲が旺盛も体重は減少している
  • 食欲低下も体重は増えている
  • 息切れする、徐脈がみられる
  • 眼球が飛び出して見える
  • 体が重く感じる、だるい
  • 月経不順がある など

主な甲状腺疾患

バセドウ病

バセドウ病とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症のひとつです。免疫異常によって引き起こされるとされ、それによって代謝が顕著になると言われています。そもそも甲状腺疾患は、女性の患者様が多いのが特徴ですが、バセドウ病の男女比は1:7以上と言われています。

主な症状は、甲状腺腫大、発汗、動悸、頻脈、体重減少のほか、眼球突出、物が二重に見える(複視)、月経異常などがみられるようになります。放置を続けると心房細動や心不全のリスクが高まるほか、重症化すると甲状腺クリーゼとなって、多臓器不全となって命を落とすということもあります。

診断をつける場合、血液検査によって甲状腺ホルモンの状態を調べる、甲状腺超音波検査(甲状腺エコー)による画像検査で血流の状態を確認していくなどします。

治療に関してですが、基本は抗甲状腺薬によるホルモンの分泌抑制になります。またアイソトープ(放射性ヨウ素)療法という甲状腺の細胞を減少させ、ホルモンの産生を抑制する治療法もあります。このほか甲状腺の一部または全部を切除する手術療法を行うケースもあります。

無痛性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎とは、甲状腺が何らかの原因によって破壊され、その影響で甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまうのが無痛性甲状腺炎です。その後は甲状腺ホルモンの分泌が不足する状態になるので甲状腺機能低下症でみられる症状がみられるようになります。なお破壊の原因については免疫異常などが考えられています。また甲状腺に痛みが感じられないのも特徴です。

主な症状ですが、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されている間は、動悸や発汗、手の震え、暑がる、体重減少などの症状がみられます。また同ホルモンの分泌が不足するようになると倦怠感やだるさ、体温が低下するなどの症状が現れます。

なお同疾患はこれといった治療をしなくても3ヵ月程度経過すると自然治癒していきますが、症状が強く出ているのであれば、対症療法として薬物療法を行うことがあります。

亜急性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎とは、甲状腺に炎症がみられ、それに伴って、首の痛み、嚥下痛(食物などを飲み込む時に出る痛み)、発熱のほか、動悸、手の震え、発汗、全身がだるいなどの症状がみられることもあります。発症の原因については、ウイルスによる感染が挙げられますが、完全には特定されていません。また治癒するまでに数ヵ月程度(2~4ヵ月ほど)かかることから、急性と慢性の間をとって亜急性甲状腺炎と呼ばれるようになりました。

診断をつけるための検査としては、甲状腺エコーで甲状腺の様子を確認する、血液検査で炎症具合を調べるなどして、総合的に判断していきます。

治療に関してですが、何もしなかったとしても自然と治癒していきます。そのため、強い症状が現れている場合に対症療法を行います。具体的には、痛みや熱があれば消炎鎮痛剤(NSAIDs)を、また強い痛みがあればステロイド薬、動悸や手の震えなどにはβ遮断薬を使用するなどです。

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病とは、甲状腺機能低下症の中では最も代表的とされる甲状腺疾患です。女性の患者数は男性の20倍ほどと言われています。この場合、甲状腺ホルモンが慢性的に分泌不足を起こすわけですが、発症メカニズムとしては自己免疫反応によって甲状腺に炎症が起き、それによって甲状腺が破壊され、甲状腺の機能が低下するようになると言われています。

よくみられる症状は、甲状腺の腫れ、声がれ、顔などのむくみ、寒がる、便秘、体重増加、皮膚がガサガサしている、髪が薄くなる、などです。

診断をつける際は、まず甲状腺の腫れの有無を医師が触診するほか、血液検査(甲状腺ホルモンの数値を調べる など)、甲状腺エコーなどの検査も行っていきます。

検査などの結果、橋本病との診断を受け、治療が必要と判断されると薬物療法として甲状腺ホルモン剤を内服していきます。なお橋本病と診断されても甲状腺の機能が正常な状態であれば治療は行いませんが、定期的に通院する必要はあります(経過観察)。